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食品業界では、意図的な異物混入や外部からの攻撃を防ぐための対策「フードディフェンス」が重要視されています。異物や有害物質が食品に混入すると、消費者はもちろん、食品を扱う方にも大きな危害を及ぼす恐れがあるからです。ここでは、食品関連事業にたずさわる方々に向けて、フードディフェンスの重要性や対処方法について、わかりやすく解説します。
フードディフェンスとは?
フードディフェンスとは、食品への意図的な汚染や破壊行為を未然に防ぐための対策です。近年、食品業界では、第三者による故意の異物混入や不正行為などの事件が増加しています。これらは、人為的なミスではなく、悪意を持った人物によって行われるものです。 フードディフェンスは、悪意ある行為から食品を守ることが目的で、安全な食品を消費者に提供するために、食品を取り扱うすべての業種で必要不可欠な取り組みとなっています。
フードディフェンスが重視される背景
フードディフェンスが重視される背景には、過去に発生した異物混入事件が大きな影響を与えています。とくに、フードディフェンスの重要性を社会に強く認識させるきっかけとなったのが、2013年に日本国内で発生した冷凍食品工場での農薬混入事件です。この事件では、会社の待遇に不満を抱いていた契約社員が、工場内で食品に農薬を混入させ、企業が大規模な自主回収を行う事態に発展しました。
従来、食品の安全対策では、ISO2200の認証を取得するなど、製造過程における衛生管理や品質管理に重点を置いていました。しかし、この事件によって、悪意を持った第三者が、意図的に食品に異物を混入させる可能性があることが明らかになり、フードディフェンスの重要性が認識されるようになったのです。 過去の異物混入事件を教訓に、食品安全を確保するための重要な取り組みとして、食品業界全体でフードディフェンスが推進されています。
【参考】「農薬(マラチオン)を検出した冷凍食品への対応について」(厚生労働省)
また、食の安全を脅かす事件を起こすのは、従業員だけではありません。2023年には、回転寿司チェーンで醤油差しの注ぎ口に口をつける迷惑行為の動画がSNSに投稿され、大きな波紋を呼びました。この動画は瞬く間に拡散され、当該チェーン企業の信頼を大きく損なう事態に発展したのです。
動画の投稿者は威力業務妨害の罪に問われましたが、この事件をきっかけに、従業員だけでなく、外部の人間による悪意ある行為の危険性が改めて浮き彫りになりました。そのため、部外者による迷惑行為も、フードディフェンスの一環としてセキュリティ対策が求められます。
フードディフェンスとHACCPの違い
HACCPとフードディフェンスは、どちらも食品の安全性を確保するための重要な取り組みですが、考え方や対象とする脅威が異なります。
HACCPとは、食品の製造工程における危害要因を特定・管理することで、食品の安全性を確保する品質保証システムです。微生物汚染や異物混入など、主に製造過程で発生する可能性のある危害要因を対象としています。
危害要因を工程ごとに分析し、適切な管理措置を講じることで、食品の安全性を確保するものです。HACCPは、食品安全管理の国際的な基準として広く採用されており、日本国内でも食品事業者に導入が義務付けられています。
一方、フードディフェンスは、食品への意図的な汚染や破壊行為を未然に防ぐための取り組みです。フードディフェンスは、HACCPとは異なり、人為的な悪意による行為である人的要素を対象としています。 製造過程における危害要因を管理するHACCPに対し、フードディフェンスは意図的な汚染や破壊行為を未然に防ぐことが目的です。食品事業者は、HACCPとフードディフェンスの両方を適切に実施することで、より強固な食品安全管理体制を構築できます。
意図的な異物混入や不正行為によるリスク
万が一、意図的な異物混入や不正行為が発生した場合、消費者と食品事業者には、どのような影響が及ぶのでしょうか?食品問題が起きたときに生じる、主な3つのリスクをご説明します。
消費者の健康被害リスク
1つめのリスクが、消費者に健康被害が生じるリスクです。異物や有害物が混入した食品を摂取することで、中毒や健康被害を引き起こす可能性があります。 とくに、幼児や高齢者といった弱者層は、被害を受けるリスクが高く、深刻な場合には問い合わせや苦情が殺到するだけに留まらず、訴訟問題や社会問題に発展することも想定されます。
企業イメージの低下リスク
2つめのリスクが、企業イメージが低下するリスクです。異物混入や不正行為が発覚した場合、企業イメージは著しく低下します。
消費者や取引先からの信頼を失うことは避けられず、問題がSNSやメディアで拡散されれば、悪いイメージが短期間で広がってしまう可能性があります。信頼を回復するには時間とコストがかかるため、長期的な影響を受けることも避けられません。
経済的損失リスク
3つめのリスクが、経済的損失が生じるリスクです。リコール対応や行政処分による多額の費用が発生したり、問題発覚後の生産ライン停止や取引停止によって売上に打撃を受けたりすることもあります。
さらに、法的措置に発展すれば、賠償金や訴訟費用が追加で発生することも考えられるため、経済的な負担はさらに大きくなるでしょう。
フードディフェンスへの取り組み例
食品の安全を守るためには、HACCPのような衛生管理だけでなく、フードディフェンスの概念に基づいた防御対策も不可欠です。具体的な取り組み事例をご紹介します。
製造現場の入退室管理を行う
生産エリアへの立ち入りを制限し、不審者の侵入を防ぐことが重要です。製造現場や作業場の入退室記録を電子化し、リアルタイムで確認できる仕組みを導入しましょう。
監視カメラで現場を監視する
施設内だけではなく、外にも監視カメラや防犯カメラを設置し、リアルタイムでモニタリングを行います。映像データを定期的にバックアップし、長期間保存しておけば、過去の状況も確認できます。
従業員向けの教育プログラムを実施する
フードディフェンスの重要性や具体的な対応方法を従業員に周知するために、定期的な研修を実施しましょう。職場で最新情報や事例を共有することも重要です。
原材料や製品の追跡管理を強化する
ロット番号やバーコードを利用して、原材料から商品が完成するまでの流れを可視化します。異常が発見された際に、迅速なリコールを可能にする追跡システムを整備し、サプライチェーン全体でトレーサビリティを実施しましょう。
帳票やチェックシートの運用を最適化する
飲食店や食品工場では、チェックシートや帳票を紙で運用しているケースが多いですが、紙媒体は情報共有に時間がかかり、緊急時の対応が遅れる場合があります。帳票を電子化すれば、リアルタイムでの情報共有や確認が可能です。
また、タブレットやスマートフォンを使用すれば、記録・管理の効率化にもつながります。電子化により、日報や在庫記録の検索性が向上するため、迅速な対応が実現できるでしょう。
緊急事態対応マニュアルを策定し訓練する
不正や汚染が発生した場合の対応手順の明確化も必要です。定期的にシミュレーション訓練を実施し、実効性を検証します。
不審物や異常を発見するための巡回点検を実施する
施設内外の巡回点検を日常的に実施し、異常の早期発見を目指しましょう。点検結果を記録・共有し、問題箇所の改善を行います。
サプライチェーン全体の信頼性を確保する
取引先の信頼性を確認し、必要に応じて監査を実施しましょう。重要な原材料については、複数の信頼できる供給元の確保が欠かせません。
従業員採用時の身元確認を徹底する
従業員を採用する際には、過去の雇用履歴や犯罪歴を厳密に確認しなければなりません。雇用前に適切な身元保証を取得することも検討しましょう。
匿名で不審行動を報告できる通報システムを設置する
従業員が匿名で通報できる、ホットラインや専用アプリの導入も不可欠です。通報内容を迅速かつ慎重に調査・対応する体制を整えるだけではなく、報告者が不利益を被らないよう保護措置を設けることも大切です。
定期的にリスクアセスメントを実施する
最新の脅威や脆弱性を考慮し、定期的にリスク評価を行いましょう。アセスメント結果に基づいて対策の見直しや強化を行います。
フードディフェンスに役立つシステムやツール
食品の安全を守るためには、システムやツールの活用も欠かせません。フードディフェンスに役立つソリューションの導入事例をご紹介します。
監視カメラ
監視カメラは、製造ラインの記録や有事の際の証拠として利用可能です。訪問者などの部外者の侵入や、従業員による異物混入防止の効果も期待できるため、事件発生の抑止にもつながります。
入退室管理システム
入退室管理システムとは、IDカードや生体認証を用いて、特定の人物の入退室を制限・管理できるシステムです。入退室履歴を管理することで、異物混入などの問題が生じた際に、入退室した者を確認できます。
異物検知システム
異物検知システムは、X線検査装置や金属探知機を用いて、製造ライン上の異物を検知するシステムです。異物混入リスクをリアルタイムで最小化し、不良品の流出を防御します。
トレーサビリティシステム
トレーサビリティシステムは、原材料や製品の履歴を追跡可能にするシステムです。サプライチェーン全体での異常や問題箇所を迅速に特定でき、異常発生時にリコール対象を明確化し、被害を最小化するために役立ちます。
電子帳票システム
電子帳票システムは、帳票やチェックシートを電子化することで、情報共有のスピード化を実現できるシステムです。紙媒体の運用に伴う記録ミスや散逸のリスクを軽減し、タブレットやスマートフォンを活用して現場での記録を効率化します。また、日報や在庫記録など、重要なデータをリアルタイムで確認できるため、フードディフェンスの現場運用をサポートするシステムとして非常に有効です。
たとえば、「i-Reporter」のような電子帳票システムを導入することで、タブレットやスマートフォンを使い、リアルタイムでデータの記録・共有ができます。日報や管理表、在庫記録簿などをデジタル化すれば、情報の即時共有ができるため、とくに緊急時の迅速な対応において効果を発揮するでしょう。 電子帳票システムの導入は、フードディフェンス対策を効率的かつ効果的に強化するために大いに役立ちます。
▼「i-Reporter」を使った食品製造業における日報電子化の事例
フードディフェンス対策にはツールを活用しよう
食品の安全を守る「フードディフェンス」は、意図的な異物混入や不正行為から食品を守るための重要な取り組みです。近年の事例からもわかるように、異物混入や不正行為は、消費者の健康被害の原因になるだけではなく、企業の信頼低下や経済的損失といったリスクを引き起こします。日々の業務における対策はもちろんのこと、最新技術を活用したシステムやツールを導入することで、より強固なフードディフェンス体制を構築できるのです。
電子帳票システム「i-Reporter」は、帳票やチェックシートの電子化により、情報共有の迅速化や記録ミスの軽減に貢献し、対策を効率的かつ効果的に強化することが可能です。 安全で信頼される食品供給を実現するために、ぜひ「i-Reporter」の導入をご検討ください。


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