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製造業における品質保証では、測定システム自体の信頼性を評価することも大変重要です。測定システム自体に誤差やバラツキなどの問題があると、製品やプロセスのデータ測定が意味をなさなくなってしまう恐れがあるからです。
MSA(測定システム解析)は、測定システムの信頼性評価に役立つツール。測定システムの信頼性と精度を客観的に評価し、製造業における品質管理の改善を実現します。
この記事では、品質管理に取り組む製造業者の方に向けて、MSAの基礎知識から、具体的な評価方法、メリット・デメリットまで詳しく解説します。2024年最新のデジタルサービスもお知らせするのでぜひ参考にしてください。
MSAに関する基礎知識
MSAは「Measurement Systems Analysis」の略で、日本語では「測定システム解析」と呼ばれます。 測定データが信頼できるものかどうかを評価するための具体的な手法のことです。測定システムの性能に対して、信頼性と精度を客観的に評価し、製造過程や品質管理を改善することを目的に実施されます。
MSAは、IATF16949において製品の品質を保証するための「コアツール」の一つとして位置づけられています。コアツールとは、品質マネジメントシステムを構築・運用するために必要不可欠なツール群のことです。ほかにはFMEA(故障モード影響解析)、APQP(先行製品品質計画)、SPC(統計的工程管理)、PPAP(生産部品承認プロセス)があります。
MSAは、ISO(国際標準化機構)やAIAG(自動車工業行動グループ)などのガイドラインで推奨されており、多くの企業で活用されています。特に、自動車産業では、AIAGが発行する「MSAマニュアル」が業界の中で広く利用されています。
MSAの5つの評価方法
MSAでは測定器のシステムを評価するための5つの項目があります。以下では、それぞれの評価項目について詳しく解説いたしますので、参考にしてください。
【MSAの評価方法①】偏り
偏りとは、基準値からのズレのことを指します。基準となる値を測定して、定量的にどのくらいズレが出るかを測ります。
例えば、50gの分銅を用意し、1人の測定者が5回測定する場合を考えてみましょう。
測定回数 | 測定結果 |
1回目 | 50.0 g |
2回目 | 50.1 g |
3回目 | 49.8 g |
4回目 | 50.1 g |
5回目 | 49.9 g |
偏りの評価では、このような測定結果をもとに、バラツキの大きさで合格・不合格を決めます。バラツキの分析方法には管理図を用いるのが一般的で、測定結果の平均値をもとに標準偏差や95%信頼区画などを算出します。
【MSAの評価方法②】安定性
安定性とは、時間の経過に伴う測定値の変化の度合いのことです。同じ測定対象を繰り返し測定した際に、測定値が安定しているかどうかを評価します。
例えば、ある製品の寸法を1日に5回、5日間連続で測定する場合を考えてみましょう。
1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | |
1日目 | 10.0 g | 10.1 g | 9.9 g | 10.2 g | 10.0 g |
2日目 | 10.2 g | 10.3 g | 10.0 g | 10.1 g | 10.2 g |
3日目 | 9.8 g | 9.9 g | 9.7 g | 9.8 g | 9.9 g |
4日目 | 10.1 g | 10.0 g | 10.2 g | 10.3 g | 10.1 g |
5日目 | 9.9 g | 10.0 g | 9.8 g | 10.1 g |
このような測定結果から、日ごとの平均値やバラツキの大きさなどを計算し、測定値が安定しているかどうかを評価します。安定性を高めるためには、測定環境の温度や湿度などを管理することが重要です。
【MSAの評価方法③】直線性
直線性とは、測定範囲全体にわたって実際の測定値がどれだけ正確かを評価する指標です。測定範囲内での各地点で測定値と基準値(真の値)を比較し、偏りの推移を確認します。
例えば、測定範囲が0〜100の測定機器を用いて、基準値0・25・75・100をそれぞれ測定するとします。
基準値 | 0㎜ | 25㎜ | 50㎜ | 75㎜ | 100㎜ |
測定値 | 0.1㎜ | 24.9㎜ | 50.2㎜ | 75.1㎜ | 99.8㎜ |
この測定結果を線グラフにすると、基準値のグラフは直線になりますが、ズレを含んだ測定値のグラフは完全な直線にはなりません。真の値が描く理想直線に対して、実測値のズレが許容できる範囲内にあるか確認するのが直線性の評価です。
【MSAの評価方法④】繰返し性
繰返し性とは、同じ測定者が対象を繰り返し数回測定した際のバラツキのことを指します。偏りとは違い、繰返し性の評価では実際の製品・商品を用いて測定を行うのが特徴です。
例えば、ある製品の寸法を1人の測定者が5回測定する場合を考えてみましょう。
測定回数 | 測定結果 |
1回目 | 10.0 mm |
2回目 | 10.1 mm |
3回目 | 9.9 mm |
4回目 | 10.2 mm |
5回目 | 10.0 mm |
このように測定回によって測定結果にバラツキが生じました。この場合、測定者は同一なので、変動要因は測定器にあるのが一般的です。そのため、繰返し性の評価は「装置変動」の評価とも言い換えられます。
【MSAの評価方法⑤】再現性
再現性とは、異なる測定者が同じ測定対象を測定した際のバラツキのことを指します。「装置変動」を見る繰返し性の評価に対して、再現性は「測定者変動」を見る指標です。
例えば、ある製品の寸法を3人の測定者がそれぞれ5回測定する場合を考えてみましょう。
測定回数 | Aさん | Bさん | Cさん |
1回目 | 10.0 cm | 10.2 cm | 9.8 cm |
2回目 | 10.1 cm | 10.3 cm | 9.9 cm |
3回目 | 9.9 cm | 10.0 cm | 9.7 cm |
4回目 | 10.2 cm | 10.1 cm | 9.8 cm |
5回目 | 10.0 cm | 10.2 cm | 9.9 cm |
上記の一覧を見ると、すべての測定回で測定者によるバラツキが生じているのがわかります。この測定者によるバラツキが小さければ小さいほど再現性が高いことを示し、測定の信頼性が高まります。再現性を高めるためにも、測定者の技術訓練や測定方法の標準化などが必要です。
なお、繰返し性と再現性をまとめて評価する「ゲージR&R(GRR)」という統計的手法も一般的です。国際規格のIATF16949では、ゲージR&Rの変動率が10%以下なら合格、10〜30%で条件付き合格、30%以上で不合格と判定されます。
またゲージR&R以外の「偏り」「安定性」「直線性」のことを「校正(較正)」と言います。校正とは、機器の測定値と真の値を比較し、測定器の精度を調整する作業のことです。
MSAを行うメリット・デメリット
MSAの実施に際してはメリットだけではなく、デメリットも考慮する必要があります。MSAのメリット・デメリットを紹介しますので、参考にしてください。
MSAを行うメリット
MSAを行うメリットは主に以下の3つです。
【MSAを行うメリット①】製品品質の向上につながる
MSAを行うことで測定の誤差が生じにくくなり、不良品の発生を軽減できます。要求事項を満たすことができるため、顧客に安定した品質の製品を提供できるようになるでしょう。結果的に、顧客満足度の向上につながります。
【MSAを行うメリット②】無駄なコストを削減できる
MSAで測定精度を高めれば、安定した品質の製品を製造できるようになります。そのため、不良品が減り、リワーク費用や廃棄費用も削減が可能です。また不良品の減少は、品質問題が発生した際の顧客への対応コストの削減にもつながります。
【MSAを行うメリット③】製品開発やプロセスを改善できる
MSAを実施すれば、測定器で取得したデータから得られた情報を適用し、製品開発やプロセスの改善に役立てることができます。また測定誤差の要因の分析がしやすくなり、製品設計の最適化や製造プロセスの効率化につながります。
MSAを行うデメリット
一方、MSAの実施には以下のようなデメリットも伴うので注意しましょう。
【MSAを行うデメリット①】導入コストや手間が発生する
MSAを実施するための人材育成やツール導入にコストが発生します。またMSAの実施には統計学や品質管理に関する知識が必要なため、専門家へのサポート依頼や社員教育に別途費用が生じることもあります。加えて、MSAを継続的に運用していくためには相応の体制が必要であり、体制整備に手間がかかることもデメリットです。
【MSAを行うデメリット②】時間がかかる
MSAを使用するデータ収集や分析は一定以上の時間を要します。そのため、人手不足の企業ではそもそも実施が難しい場合もあるかもしれません。また迅速な対応が必要な際には、MSAが間に合わない可能性もあります。
限られた時間の中でMSAを実施するには、ITツールを用いてデータの収集・分析を効率化するのがおすすめです。また周辺業務をITツールで効率化し、MSAの時間を捻出するという考え方もあるでしょう。
MSAはITツールを活用して効率よく実施しよう!
MSAは、品質管理の向という特性を持つ製造業にとって、便利な手法です。MSAを適切に導入・運用することで、製品品質の向上、コスト削減、顧客満足度の向上を実現し、競争力を強化できるでしょう。ただし、MSAを行うにはコストや手間、時間がかかるため、ITツールの活用をはじめ、自社に合った方法を選択することも重要です。適切な判断が求められるでしょう。
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