
ムネ製薬株式会社

Excelで帳票を管理していたが、監査証跡が取れないという問題がどうしても発生していた。GMP対応で求められるデータインテグリティにおいては、「いつ、どこで誰が書いたのか」という証跡を証明する必要があるが、紙の状態だと証明が難しい。
カイゼン効果!
変更履歴、タイムスタンプ、アカウント記録が自動的に残る仕組みを構築。誰がいつ何を変更したかが自動的に記録され、改ざんや不正が起きにくい仕組みを実現。監査証跡の徹底とトレーサビリティを確保した。
重量の測定値を手入力する際、33.7という数値を連続で10回入力すると、337や3.7になるなど入力ミスが頻発。年間20〜30件の転記ミスが発生していた。
カイゼン効果!
計測器にBluetoothアダプタを接続し、測定データを自動転送する仕組みを構築。測定器から直接データを取得することで転記ミスがほぼゼロに。目視確認→帳票記入→Excel入力という二度手間も解消された。
紙帳票では、製造現場で記入した後、事務所に運び、品質管理部門がチェックし、最終的に保管庫に移動させる必要があった。移動工数だけで年間約43万円のコストが発生していた。
カイゼン効果!
電子化により物理的な移動が不要に。チェックのタイムラグ解消や保管スペース縮小も進む中、移動コストも11万円程度まで削減され、約7割 (年間約32万円) のコスト削減効果を実現。作業者は製造業務に集中できるようになった。
製造完了後の最終チェックでは、複数の紙帳票を目視で確認する必要があり、約20分を要していた。各工程の記録をロット番号で一元管理し、入力漏れや逸脱を自動チェックする仕組みを構築。最終確認時間は5分程度まで短縮された。

代表取締役 社長 西岡一輝 氏

品質保証部 次長 多田俊雅 氏

製造部 課長 芝床俊光 氏

製造部 係長 福榮法子 氏
兵庫県淡路島に拠点を置くムネ製薬株式会社は、創業115年の歴史を持つ医薬品製造販売メーカーである。 浣腸薬に特化し、一般用浣腸薬で国内シェア約35%を誇る業界トップクラスの企業だ。
同社の代表製品である「ひとおし40」は、ジャバラ型容器を採用し、握力の弱い方でも簡単に使用できるユニバーサルデザインを実現。医薬品容器として初めてグッドデザイン賞を含む複数のデザイン賞を受賞した。注入式痔疾薬など、他社にない独自性のある製品展開も特徴である。

親しみやすいブランド戦略として、キャラクターやQRコードを活用したパッケージデザインで、消費者との距離を縮める工夫も行っている。 同社の製品は、ドラッグストアや薬局で広く販売されており、一般消費者の身近な存在である。一方で、医薬品製造の裏側では、厳格なGMP対応が求められる。
GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準)対応における記録管理の課題を抱えていた同社は、 2024年にi-Reporterを導入し、製造記録・試験記録・機械整備記録など主要帳票を電子化。帳票入力時間を半減させるとともに、 監査証跡の徹底、トレーサビリティの確保、不正防止の強化を実現した。
i-Reporterの導入により、電子記録の変更履歴、タイムスタンプ、アカウント記録が自動的に残る仕組みを構築。GMP対応の品質向上と業務効率化を同時に達成している

医薬品製造業において、GMP対応は最も重要な品質管理基準である。製造記録、試験記録、機械整備記録など、膨大な帳票が日々作成され、厳格な管理が求められる。
品質保証部の多田氏は、導入前の課題をこう振り返る。
「現場における監査証跡の理解が不十分で、帳票開発時の対応が不十分になることが懸念されました。また、帳票量の肥大化に伴う情報処理速度の低下が顕著でした」

同社では、i-Reporter化した帳票だけでも月間約千枚、年間では約12,000枚の帳票が発生しており、必要な記録を探し出すことが大きな負担となっていた。
従来、同社ではExcelで帳票を管理し、紙に出力する方法を取っていたが、GMP対応において致命的な問題があった。多田氏は続ける。
「従来はExcelで帳票を管理していましたが、監査証跡が取れないという問題がどうしても発生してしまいました。この課題解決のため、i-Reporterへの移行を検討しました」
GMP対応で求められるデータインテグリティにおいては、「いつ、どこで誰が書いたのか」という証跡を証明する必要がある。しかし、紙の状態だと証明が難しいという根本的な課題があった。
監査対応においても、紙ベースの管理では記録の検索と提示に大きな課題があった。同社では、5年ごとの許可更新時をはじめ、新規申請時などに監査を受ける必要がある。 その際、監査を受ける場所に書類を一列に並べて、「要求された帳票」をすぐに取り出せる状況にしておかなければならない。

多田氏は、この課題について次のように語る。
「監査が入った際に、過去の記録をどれだけ迅速に提示できるかが課題でした」
さらに、Excel技術者の確保も課題となっていた。福榮氏は実情を次のように語る。
「実質、Excel技術者は2人しかいない状況です。もう1人、ある程度育てていたのですが退職してしまい、現在は2人で対応しています」
紙の時からマクロを作り込んで運用していたが、その仕組みをメンテナンスできる人材が限られており、属人化のリスクが高まっていた。
製造部の福榮氏は、i-Reporterとの出会いをこう語る。
「帳票類を電子化しようと考えて、様々なツールを調べているときにi-Reporterを見つけました。 導入の規模や予算を考え、最終的にi-Reporterを候補にし、i-Reporterの講習に行って、弊社社員のスキルで導入可能かを確かめました」

医薬品製造業では、帳票の正確性と再現性が極めて重要である。そのため、自社の技術者で構築・運用できるかどうかが、ツール選定の重要な判断基準となった。
福榮氏は、i-Reporter導入の決め手について次のように説明する。
「導入の決め手は比較的安価であったことと、『現場帳票のレイアウトをそのまま電子化できる』ことでした。帳票を電子化する際に考えられるハードルがいくつかあったので、ひとつでも少ない方が良いと考えていました」

既存の紙帳票は長年の運用で現場に定着しており、大きく変更すると混乱を招くリスクがある。また、GMP対応の観点からも、既存帳票をベースにバリデーション(検証作業)を行う方が効率的だった。i-Reporterは、Excelで作成した帳票をそのままデジタル化できるため、現場への教育コストを最小限に抑えながら、スムーズな移行が可能になると判断された。
医薬品製造業におけるシステム導入では、コンピュータ化システムバリデーション(以下、CSV)対応が必須となる。CSVはシステムの複雑さによってカテゴリー1〜5に分類され、数字が大きいほどバリデーションの負担が増す。
多田氏は、CSV対応における懸念を次のように語る。
「当初、弊社の要件に合わせてシステムを作成していくことを考えると、カテゴリー5になるのではないかという先入観がありました。カテゴリー5だと、設計段階からしっかり品質を落とし込めているか、というところのバリデーションから始まるため、非常にハードルが高くなります」
しかし、i-Reporterには製薬会社での導入実績があり、パッケージ製品として最も負担の軽いカテゴリー3で対応できることが分かった。
「カテゴリー3という事例があると情報提供いただき、導入に踏み切った大きな要因の一つになりました。カテゴリー5だと相当な工数とリスクが伴いますが、パッケージ製品として実績のある機能を活用する形になるため、バリデーションの負担が大幅に軽減されました」(多田氏)
この判断により、CSV対応の工数を大幅に削減でき、スムーズな導入が実現した。
i-Reporter導入は、製造部と品質保証部が連携したプロジェクトとして推進された。 製造部の福榮氏が帳票開発とシステム運用を担当し、品質保証部の多田氏がGMP対応、紙とi-Reporterのバリデーションの正当性を製造部の芝床氏が担当するという役割分担で進められた

導入を成功させるため、各工程のリーダーへの教育に力を入れた。福榮氏は次のように振り返る。
「検査工程、包装工程、箱詰め工程、それぞれにリーダーや主任がいます。まず、その人たちだけを集めて、各帳票の入力方法を教育しました」
各工程のリーダーが現場への展開を担当することで、段階的な導入が実現した。
導入は無料トライアルを活用し、慎重に段階を踏んで進められた。 福榮氏は、その経緯を振り返る。
「トライアル期間中に6〜7割程度まで帳票を完成させ、購入後に再度開発を行い、完成した段階で紙帳票とi-Reporterを1ヶ月並走させました。 その期間に問題を潰し込んで、最終的に完全移行しました」
トライアルから本番稼働まで、約1年をかけて丁寧に進めたことが、大きなトラブルなく移行できた要因となった。
トライアル期間中は、様々な課題が発生した。 タブレットの反応速度への不満や、タッチパネル操作に慣れていない従業員への対応など、現場の声を丁寧に拾い上げ、帳票の改善を重ねていった。 これらの課題を一つ一つ潰し込んでいくことで、現場が安心して使える環境が整った。
福榮氏は、導入プロセスにおいて現場教育に特に力を入れたという。
「現場で実際に使う従業員の教育に力を入れました。 現場にタブレットを置いて、いつでも誰でも触れるようにし、使用感の感想を書いてもらうように意見箱を設置しました」

医薬品製造現場では、記録の正確性が製品の品質に直結するため、従業員が新しいツールに慣れることが極めて重要だった。 タブレットを自由に触れる環境を整え、現場の声を丁寧に拾い上げることで、導入への心理的ハードルを下げる工夫を行った。
福榮氏は、現場からのフィードバックをもとに行った改善の具体例を紹介する。
「『この項目は入力の順番が作業手順と違う』『この計算結果は小数点第2位まで表示してほしい』『この項目は前工程の値を自動で引き継いでほしい』など、細かい要望が多数寄せられました。一つ一つ丁寧に対応していくことで、現場にとって本当に使いやすい帳票に仕上がりました」
特に、入力順序が作業手順と一致していることは重要だった。 作業の流れに沿って自然に入力できることで、入力漏れや入力ミスが大幅に減少した。
「現場の作業者は、帳票入力のために作業を中断したくありません。 作業をしながら、その流れの中で自然に入力できることが理想です。そのため、帳票のレイアウトや入力順序を何度も調整しました」(福榮氏)
このような現場視点の改善が、高い運用定着率につながっている。
タブレット操作に慣れていない世代が多い中、現場への展開には工夫が必要だった。多田氏は、導入時の戦略を次のように語る。
「各工程のリーダーを集めて、メリットを最大限に前面に出しました。 『日付はボタン1つで入力できる』『計算は自動で行われるので計算は不要』『入力ミスによる指摘がなくなる』など、現場の手間が減ることを強調しました」

実際、使い始めてみると「こちらの方が楽だ」という声が上がり、スムーズに定着していった。
製造現場には50代、60代の従業員も多く、タブレット操作への不安が懸念された。 しかし、丁寧な教育と、操作を簡略化した帳票設計により、年齢層に関係なく使いこなせるようになった。
「最初は『タブレットなんて触ったことがない』という声もありましたが、 実際に使ってみると『こっちの方が楽』と言ってもらえました。特に計算が自動でできることや、紙を探す手間がないことが好評でした」(福榮氏)
むしろ、紙帳票での手書きや計算に苦労していた従業員ほど、i-Reporterの恩恵を強く感じている傾向がある。 各工程に専用のタブレットを配置することで、共用による待ち時間も発生せず、スムーズな運用が実現している。
ムネ製薬では、製造ロットごとに製造指図書が発行され、各工程で記録を残す必要がある。 福榮氏は、帳票設計において現場の作業負担を極力減らす工夫を凝らした。
「連続して入力する項目はネットワーク設定で次のクラスターを自動表示するようにしました。また、計測器にBluetoothアダプタを接続してデータを転送するなど、入力者の動作負担を極力減らすようにしました」
このネットワーク機能により入力漏れを防止できるほか、計測器とタブレットのBluetooth接続で測定値を手入力する必要がなくなり、転記ミスのリスクも排除された。
「重量の測定値を入力する際、33.7という数値を連続で10回入力すると、337になったり、3.7になったりするミスが頻発していました。年間で20〜30件の転記ミスが発生していましたが、Bluetooth連携により、ほぼゼロになりました」(福榮氏)

測定器から直接データを取得することで、目視確認→帳票記入→Excel入力という二度手間もなくなり、作業効率も向上した。また、確認必須の項目を赤字にするなど、紙帳票では難しかった色分けや強調表示を活用し、重要項目を視覚的に分かりやすくすることで、記入漏れや見落としを防ぐ工夫も施した。
帳票の検索性向上のため、QRコードを活用した仕組みも構築した。
「看板にQRコードをつけて、そこから該当の帳票を呼び出せるようにしました。ロットナンバーが入っている看板のQRコードを読むと、該当する帳票が立ち上がるので、わざわざ帳票を探しに行く必要がなくなりました」(福榮氏)

同じロットで異なる品種を製造する場合でも、看板を変えることで適切な帳票にアクセスできる。また、各工程のアカウントには権限設定がされており、該当する工程の帳票しか呼び出せないため、誤入力のリスクも防止している。
福榮氏は、トレーサビリティ確保における効果を次のように語る。
「電子帳票になる前からきちんと記録は取っていましたが、i-Reporterでは直接資材ロット等の写真を帳票に残しておけるので、手間が減ったのと、書き間違い等の転記ミスが無くなったのは効果的でした」
医薬品製造では、使用した原材料のロット番号を正確に記録し、トレーサビリティを確保することが極めて重要である。従来の紙帳票では、容器に印字されたロット番号をロット採取専用のテープで剥がして帳票に貼り付ける作業が必要だった。福榮氏は、この作業の困難さを振り返る。

「外箱のロット番号は紙が分厚くて切りにくく、容器に印字されているロット番号の貼り付けはもっと大変で、ロット採取専用のテープで何回も失敗しながら剥がして、1つずつ貼り付ける必要がありました」

i-Reporter導入後は、タブレットで写真を撮影するだけで記録が完了するため、作業時間が大幅に短縮され、手書き転記による入力ミスも解消された。
福榮氏はさらに、監査証跡における効果を強調する。
「帳票の入力を修正が発生した場合でも、変更前の記録と変更した日時、アカウントの記録が残る点も良かったです」

GMP対応において、記録の変更履歴(監査証跡)は最も重要な要件の一つである。 i-Reporterでは、誰がいつ何を変更したかが自動的に記録され、改ざんや不正が起きにくい仕組みが実現された。
変更履歴は、不正防止だけでなく、システム改善にも活用されている。多田氏は次のように語る。
「導入初期には、オペレーターが帳票に慣れておらず、意図しない操作が多発しました。しかし、履歴を見ることで、どういう操作をしたのかが分かり、『こういう条件だとこうなるのか』という気づきが何回もありました。それをもとに手順書を組み直し、再発防止につなげることができました」
例えば、日付が意図せず変更されているケースが複数発見され、タップ操作で誤って日付を変更してしまう問題が判明。これを受けて、日付入力の順序を見直し、操作方法の教育を徹底した。
履歴機能は、単なる記録保存ではなく、継続的な改善活動のための貴重な情報源となっている。
福榮氏は、不正防止のための工夫について説明する。
「クラスターに細かく権限設定をすること、重要な項目を変更した場合は帳票自体の入力完了日が変更になるように設定しました」
i-Reporterでは、帳票内の各入力項目(クラスター)ごとに、誰が入力・編集できるかを細かく設定できる。製造担当者は製造記録のみ入力可能、品質管理担当者は検査結果のみ入力可能、といった権限分離を徹底することで、不正や誤操作を防止している。
権限設定においては、ユーザーグループ機能を活用した。多田氏は次のように説明する。
「i-Reporterではユーザーグループを作成して、そのグループに対して権限を割り当てることができます。各工程や部署ごとにグループを作成し、グループ単位で権限を管理することで、新入社員が入ってきたときも、該当グループに追加するだけで適切な権限が付与されます。人事異動があった場合も、グループの所属を変更するだけで権限の切り替えが完了します」
さらに、重要な項目を変更した場合、帳票の入力完了日が自動的に更新される仕組みを構築した。これにより、事後的な改ざんがあった場合、すぐに検知できる体制が整った。
GMP対応では、重要なデータについて二重チェック(ダブルチェック)が求められる。多田氏は、i-Reporterによる二重チェックの仕組みを次のように説明する。
「製造担当者が入力した後、品質管理担当者が確認する二重チェックの仕組みを構築しました。品質管理担当者しか『承認完了』ボタンを押せないように権限を設定しており、承認が完了するまでは帳票が確定されません。承認時に必須チェック項目を設けることで、形式的な承認を防止しています」
承認プロセスが電子的に記録されることで、誰がいつ承認したかが明確になり、紙帳票時代の押印では不明確だった責任の所在も明確化された。品質保証の実効性が高まったことも、大きな効果の一つである。

品質保証部の多田氏は、定性的効果として従業員の意識変化を挙げる。
「帳票の処理に関して、従来であれば情報をその場で記憶し、最終的に帳票に書き込む状態でした。しかし、リアルタイムの帳票記入に関する従業員の意識変化があり、GMPの実践に寄与しています」
紙運用では、現場で情報を記憶し、後で帳票に記入するという二度手間が発生していた。GMPでは、作業と同時に記録を行うこと(同時記録)が求められる。後から記憶を頼りに記入すると、記録の正確性が損なわれるためだ。
i-Reporter導入により、タブレットで直接入力できるようになったことで、現場でその場で記録を残すことが当たり前になり、GMPの基本原則である「同時記録」が徹底されるようになった。
工程間の情報伝達も大きく改善された。多田氏は次のように語る。
「従来は、前工程の数値を次工程に口頭で伝えていました。しかし、i-Reporterでは1つの帳票定義内でシートを移動すれば、前工程の情報が自動的に引き継がれます。カーボンコピー機能により、基本情報が自動的に埋まった状態で次工程が作業を開始できるため、転記ミスもなくなりました」
この仕組みにより、工程間の連携がスムーズになり、製造リードタイムの短縮にもつながっている。

ロット単位の最終チェック作業も効率化
製造が完了した後、ロット単位で記録内容の最終チェックを行っている。各工程で入力されたi-Reporterの記録は、ロット番号に紐づけて管理され、全工程分の帳票が揃っているかを確認。その後、入力漏れや不良率、逸脱の有無を自動的にチェックする仕組みを構築した。
規定値を超える不良率や逸脱が検知された場合は是正対応が必要となり、すべての条件を満たしたロットのみが最終判定処理へ進む。
「以前は、複数の紙帳票を目視で確認していましたが、今はロット単位で必要な情報が揃っているかを短時間で確認できます。従来約20分かかっていた最終確認が、5分程度で完了するようになりました」(製造部 福榮氏)

福榮氏は、定量的な効果について次のように語る。
「帳票の入力に関していえば、かかる時間は全体で半分ほどになりました。紙の書類を物理的に移動させる必要がなくなったこと、計算を自力でしなくてもよくなったことで検算しなくなったことが大きいと思います」
紙帳票では、製造現場で記入した後、事務所に運び、品質管理部門がチェックし、最終的に保管庫に移動させる必要があった。これらの物理的な移動時間が完全に削減された。また、i-Reporterの自動計算機能により、手計算とその検算作業が不要になった。医薬品製造では計算ミスが致命的なため、従来は必ず複数人で検算を行っていたが、この工数も削減された。
導入時の稟議では、定量効果と定性効果の両面から投資対効果を示した。多田氏は、稟議のポイントを次のように振り返る。
「GMP対応における監査証跡の確保、データインテグリティの強化といった定性的な効果を前面に出しつつ、移動コスト削減、紙コスト削減、作業時間削減といった定量効果も示しました。両方の視点から投資対効果を説明することで、経営層の理解を得ることができました」
定量効果については、工場改善の一般的な指標「1歩1秒1円」を用いて移動距離削減による効果を数値化。福榮氏は次のように説明する。
「コンサルタントの指導のもと、帳票を持って移動する距離を歩数で測定し、年間の移動コストを試算しました。紙帳票の場合、年間約43万円の移動コストがかかっていましたが、i-Reporter導入後は約11万円に削減され、約7割削減(年間約32万円のコスト削減効果)が得られました」
物理的な移動がなくなることで、作業者は製造業務に集中できるようになり、生産性の向上にもつながっている。
紙帳票の削減により、物理的な保管スペースとコストも大幅に削減された。
「保管スペースは半分以下になりました。製造記録だけでなく、月末の在庫集計用に製造現場に置いていたコピーもなくなったため、紙のコストは半減しました」(多田氏)
医薬品製造では、帳票の保管期間が5年以上と定められているため、紙帳票の保管スペース確保が大きな課題となっていた。電子化により、この問題が解決され、保管スペースを他の用途に活用できるようになった。

i-Reporter導入により、データが蓄積されることで、新たな価値が生まれている。福榮氏は、不良数集計の効果を次のように語る。
「不良数の集計が非常に楽になりました。Excelマクロを作成し、ボタン1つで過去数カ月分の検査工程の不良数を確認できるようになりました」
データをグラフ化して現場に掲示することで、これまで見えなかった情報が可視化され、現場での改善活動が促進された。

「今まで数字を管理している人しか知らなかった不良数を、グラフにして現場で共有できるようになりました。『この不良が多いが、対策はどうなったか』『機械要因ではないか、メーカーに確認したか』といったコミュニケーションが生まれ、改善のPDCAサイクルが回るようになりました」(福榮氏)
不良金額に換算することで、改善効果の経済的インパクトも明確になり、現場の改善意欲も向上している。
生産指示データ連携の仕組みとi-Reporterの役割について
i-Reporterを単体で使用するのではなく、既存の生産管理フローと連携させた運用を構築している。
生産管理部門で立案された生産計画をもとに、当日製造分のロット番号や数量を出力。
そのデータをi-Reporter取り込み用の形式へと変換している。
i-Reporterには「現場で記録すべき情報のみ」を正確に受け渡す設計とした。
「間違った指示を現場に流さないことが最も重要です。CSVファイル連携の設計と、初期導入時のバリデーションには特に時間をかけました」(品質保証部 多田氏)
このように、各システムにそれぞれの役割を明確に分けることで、既存業務を大きく変えることなく、GMP要件に適合した電子帳票運用を実現している。
当初、i-Reporter専用として導入したタブレットが、他の用途にも活用されている。
「設備のカウント数量をリアルタイムで表示するアプリケーションや、稼働率のモニタリングなど、タブレットを様々な用途に活用しています。カウンター機器が故障した際も、『タブレットがあるから、センサーとソフトで対応しよう』という発想が生まれました」(福榮氏)
デジタル化の投資が、当初想定していなかった副次的効果を生み出している。

同社は、さらなるGMP対応の強化とデジタル化の推進を計画している。
「今はi-Repo Link(アイレポリンク)の導入を進めており、今後はIoT DataShareを使用し、機械のデータを取得することなどを考えています」(福榮氏)
i-Repo Linkは、i-Reporterと外部システムを連携させる機能で、基幹システムとのデータ連携や、BIツールでのリアルタイムな可視化が可能になる。また、IoT DataShareを活用することで、製造設備や計測機器からのデータを自動的に取得し、i-Reporterの帳票に自動記録する仕組みを構築予定だ。
将来的には、製造設備のPLC(Programmable Logic Controller)からのデータ取得も視野に入れている。
「PLCから温度や圧力などのプロセスデータを自動的に取得し、i-Reporterの製造記録に記録する構想があります。これが実現すれば、人が目視で確認してタブレットに入力するという作業がなくなり、完全自動化された記録が可能になります」(多田氏)
ただし、PLC連携には設備メーカーとの調整や、セキュリティ対策など、クリアすべき課題も多い。段階的に進めていく予定だ。

i-Reporter運用が軌道に乗る中で、新たな課題も見えてきた。多田氏は、サーバーパフォーマンスの問題を次のように語る。
「データ量が増えてくると、サーバーのパフォーマンスが落ちてきます。特に写真データを多用している帳票では、データが肥大化しやすい傾向があります」
医薬品製造では、トレーサビリティ確保のため多数の写真を添付する必要があり、写真データはテキストデータに比べて容量が大きく、長期間運用するとデータベースの肥大化につながる。
この課題に対し、データアーカイブの仕組み構築を検討している。多田氏は次のように語る。
「過去のデータを定期的にアーカイブし、本番環境から切り離すことで、サーバーのパフォーマンスを維持する必要があると考えています。ただし、GMP対応では過去5年分以上のデータを保持し、監査時に迅速に提示できる体制が求められます。アーカイブしたデータの検索性をどう担保するかが課題です」
また、Excel技術者の確保も継続的な課題として認識されている。
「i-Reporterの帳票はExcelで設計するため、Excel技術者が社内にいることが前提になります。関数やマクロを活用した高度な帳票を作成するには、一定のスキルが必要です。今後、技術の伝承や社内教育をどう進めるかが重要になってきます」(多田氏)
属人化を防ぎ、持続可能な運用体制を構築するため、AIを活用しながら社内でのスキル共有と教育に力を入れている。
多田氏は、同じようにGMP対応を検討している企業へのアドバイスとして、次のように語る。
「i-Reporterでできること・できないことを把握し、GMPの要求内容をいかに帳票に落とし込めるかがポイントとなります」
医薬品製造業のGMP対応は、単なるペーパーレス化ではなく、監査証跡、トレーサビリティ、データインテグリティ(データの完全性)など、厳格な要求事項への対応が必要である。
i-Reporterの機能を深く理解し、自社のGMP要求事項に合わせて帳票設計を行うことが、成功の鍵となる。
ムネ製薬の取り組みから、電子帳票導入の成功ポイントが見えてくる。
第一に、現場視点の帳票設計である。既存のレイアウトを維持しながら、作業フローに沿った入力順序を設計し、現場の声を反映して何度も改善を重ねたことが、高い定着率につながった。
第二に、段階的な展開とトライアルである。トライアル期間と1ヶ月の並走期間を設け、十分に課題を潰し込んでから本番稼働したことで、大きなトラブルを回避できた。
第三に、部門横断の推進体制である。製造部と品質保証部が連携し、業務効率化とGMP対応を両立させたことが、プロジェクトの成功につながった。
そして第四に、CSV対応の戦略的判断である。カテゴリー3での対応により、バリデーションの負担を大幅に軽減し、導入のハードルを下げることができた。
ムネ製薬の取り組みは、医薬品製造業における電子帳票システム導入の好事例として、多くの企業にとって参考となるだろう。


上記のレビューは、ITreview(https://www.itreview.jp/products/i-reporter/reviews)より引用しています。
※ITreviewは実名・企業登録制のレビュー投稿サイトで、現場担当者の生の声が数多く掲載されております。